カラオケで高い声を出そうとしたとき、急に声がひっくり返ったり、弱々しい裏声になってしまったりして悩んでいませんか。多くのシンガーがぶつかる壁が、この「裏声と地声の間」をどう歌いこなすかという点です。この境界線がスムーズに繋がると、歌唱の幅は一気に広がり、高音域でも力強く豊かな響きを保てるようになります。
ボイストレーニングの世界では、この中間的な声を「ミックスボイス」や「ミドルボイス」と呼びます。プロの歌手のように低音から高音まで一本の線で繋がったような歌声を手に入れるためには、喉の筋肉をバランスよく使い分ける技術が必要です。この記事では、初心者の方でも今日から実践できる練習方法や、コツを分かりやすく解説していきます。
裏声と地声の間のギャップを埋めることは、決して才能がある人だけに許された特権ではありません。正しい知識を持ち、適切なステップでトレーニングを積めば、誰でも自由自在に声を操れるようになります。あなたの理想とする歌声に近づくために、まずは声の仕組みを理解するところから始めていきましょう。
裏声と地声の間にある「ミックスボイス」の基本知識

歌声を自在に操るために、まずは裏声と地声の間に位置する声の正体について深く掘り下げていきましょう。この中間領域をマスターすることは、歌唱力を向上させる上で最も重要な課題の一つと言っても過言ではありません。理論を理解することで、日々の練習の効率が飛躍的にアップします。
地声と裏声の筋肉の役割を知ろう
私たちの喉の中では、大きく分けて2つの筋肉が声の高さや質をコントロールしています。一つは地声を出すときに主に働く「甲状披裂筋(こうじょうひれつきん)」、もう一つは裏声を出すときに働く「輪状甲状筋(りんじょうこうじょうきん)」です。地声の筋肉は声帯を厚く短くし、裏声の筋肉は声帯を薄く引き伸ばす役割を持っています。
多くの人が地声と裏声の間で声がひっくり返ってしまうのは、この2つの筋肉の切り替えがうまくいっていないからです。低音域では地声の筋肉が優位になり、高音域に上がるにつれて裏声の筋肉へ主導権を渡す必要があります。この受け渡しが急激に行われると、パコンと声が裏返る現象が起きてしまいます。
トレーニングの目的は、これら2つの筋肉を同時に、かつバランスよく働かせる状態を作ることです。これを「声区の融合」と呼びます。筋肉の動きを直接見ることはできませんが、喉の状態を意識しながら声を出すことで、徐々にコントロール感覚が身についていきます。まずは、自分の声がどちらの筋肉を使いすぎているかを観察することから始めましょう。
ミックスボイスが歌声に与えるメリット
裏声と地声の中間的な発声であるミックスボイスを習得すると、歌唱において非常に多くのメリットを享受できます。最大の利点は、高音域を地声のような力強さで歌えるようになることです。通常の地声では苦しい高さでも、ミックスボイスを使えば喉を締め付けることなく、楽に響かせることが可能になります。
また、声の音色が統一されるため、聴き手に違和感を与えずにスムーズな曲の展開を作ることができます。バラードの盛り上がりで高音へ駆け上がる際も、声が細くならずに情感を込めて歌い上げられるようになります。表現力の幅が広がることで、選曲の自由度も格段に高まるでしょう。
さらに、喉への負担が大幅に軽減されるというメリットも見逃せません。無理に地声を張り上げる歌い方は喉を痛める原因になりますが、ミックスボイスは効率的な声帯の振動を利用するため、長時間歌っても疲れにくくなります。プロの歌手がコンサートで何十曲も歌い続けられるのは、この効率的な発声を使いこなしているからなのです。
換声点(ブリッジ)を乗り越えるための考え方
声が地声から裏声に切り替わるポイントのことを「換声点(かんせいてん)」、または「ブリッジ」と呼びます。多くのシンガーにとって、この換声点をいかに目立たなくさせるかが最大の関心事です。まずは「換声点は誰にでもあるもの」と理解し、それを敵視せずに受け入れる心の余裕が大切です。
換声点付近では、声帯の使い方が根本的に変化しようとしています。ここで無理に地声を押し通そうとすると、喉が閉まって「苦しい高音」になってしまいます。逆に、すぐに裏声に逃げてしまうと、声のボリュームが極端に落ちてしまいます。大切なのは、地声の響きを残したまま、裏声の軽やかさを取り入れる感覚です。
練習を始めたばかりの頃は、換声点で声が不安定になるのは当たり前のことです。それは筋肉が新しいバランスを学ぼうとしている証拠でもあります。焦らずに、少しずつ地声と裏声が混ざり合う面積を広げていくイメージを持ちましょう。毎日の少しずつの積み重ねが、滑らかな声の繋がりを作り上げます。
理想的な歌声のバランスとは?
理想的なミックスボイスとは、単に地声と裏声の中間の音が出ることではありません。それは、低音から高音まで全ての音域で「地声の成分」と「裏声の成分」が絶妙にブレンドされている状態を指します。低音でも裏声のようなリラックスした感覚を持ち、高音でも地声のような芯のある響きを持つのが理想です。
このバランスが整うと、歌声にツヤと張りが生まれます。特定の高さで声の出し方を変えるのではなく、一曲を通して常に喉の状態を最適化し続けるイメージです。ボイストレーニングでは、この「鳴り」のバランスを均一にすることを目指します。自分にとって最も心地よく、かつ響きが豊かなポイントを探っていきましょう。
また、人によって地声が強いタイプ(チェスト優位)と、裏声が強いタイプ(ヘッド優位)がいます。自分の得意な方をベースにしつつ、足りない要素を補っていくことで、自分だけの魅力的なミックスボイスが完成します。他人の真似をするだけでなく、自分の楽器(体)に最適な設定を見つけることが、上達への近道となります。
裏声と地声の間のギャップを埋める基礎トレーニング

理論を学んだ後は、実際に声を出すトレーニングに移行しましょう。裏声と地声の間にある溝を埋めるためには、特定の筋肉を個別に鍛えた上で、それらを統合する練習が必要です。ここでは、初心者の方でも感覚を掴みやすい4つの基本的なエクササイズを紹介します。
エッジボイスで声帯の閉鎖感覚を掴む
裏声と地声の間を繋ぐ鍵となるのが、声帯の「閉鎖」という動作です。声帯がピタッと合わさることで、息が効率よく声に変換されます。この感覚を最も簡単に体験できるのが「エッジボイス」です。呪怨のような「ア、ア、ア…」というブツブツとした音を出す練習法で、喉をリラックスさせたまま声帯を閉じることができます。
エッジボイスを出しながら、そのまま少しずつ音程を上げてみてください。声帯が閉じた状態をキープしたまま高音へ移行できれば、それがミックスボイスの入り口となります。もし途中で音がスカスカになってしまう場合は、声帯の閉じが弱まっているサインです。まずは小さな音で構わないので、芯のある音を持続させる練習を繰り返しましょう。
【エッジボイスの練習ポイント】
1. 息を止め、声帯を軽く閉じる感覚を意識する
2. 最小限の息で、低い音から「ア、ア、ア」と鳴らす
3. 喉の奥でプツプツとした振動を感じるまでリラックスする
この練習は喉への負担が少なく、ウォーミングアップとしても非常に優秀です。声がひっくり返りやすい原因の多くは、高音で声帯が開いてしまうことにあります。エッジボイスで「声の芯」をキープする感覚を体に覚え込ませることで、裏声でも地声のような強さを出せる土台が整います。
喉に負担をかけない裏声の出し方
ミックスボイスの材料となる「裏声(ヘッドボイス)」を磨くことも欠かせません。多くの方は裏声というと、弱々しく息が漏れた音を想像しがちですが、トレーニングで鍛えるべきは「芯のある裏声」です。喉の奥を広げ、明るく響く裏声が出せるようになると、地声との親和性が高まります。
練習のコツは、頭のてっぺんから声が抜けていくようなイメージを持つことです。口を縦に開き、あくびの時のような喉の形を作ります。そこから「ホー」や「フー」という音で、優しくも力強い裏声を出してみましょう。このとき、息を吐きすぎないように注意し、鼻の奥の方で音が響いているのを感じることが重要です。
しっかりとした裏声が出せるようになると、地声と混ぜたときに声が細くなりません。裏声は「高音域の安全な出し方」でもあります。この裏声の響きに、少しずつ地声の力強さを足していくのがミックスボイスへの王道ルートです。まずは、自分の裏声が美しく響くポイントを徹底的に探してみてください。
鼻腔共鳴を意識して響きを整える
声が地声から裏声に変わるとき、響きの位置も移動します。この移動を滑らかにするのが「鼻腔共鳴(びくうきょうめい)」です。鼻の奥にある空間に声を響かせることで、地声の重さと裏声の軽さを橋渡しする効果があります。鼻を指で軽くつまんで声を出し、指に振動が伝わっていれば成功です。
具体的には、「ンー」というハミングの練習が効果的です。口を閉じたまま、鼻の付け根あたりに振動を集めるイメージで声を出します。その振動を保ったまま「マ」や「ミ」といった言葉に繋げてみましょう。鼻腔に響きが固定されると、音程が上下しても声の通り道が一定になり、声区の切り替えがスムーズになります。
多くの歌手が「高音は鼻の方へ飛ばす」と言いますが、これは鼻腔共鳴を指しています。ここに響きが集まると、喉を絞めなくても大きな声が出るようになります。裏声と地声の間の音域では、特にこの鼻腔への意識を強めることで、声がこもったりひっくり返ったりするのを防ぐことができます。
リップロールで息の量をコントロールする
声の切り替えを邪魔する大きな要因の一つが、不安定な呼気(吐く息)の量です。息を吐きすぎると声帯は開いてしまい、逆に少なすぎると声が詰まってしまいます。この息のバランスを整えるのに最適なのが「リップロール」です。唇をプルプルと震わせながら音階を上下させる練習法です。
リップロールをしながら換声点を通過する練習をすると、無理な力みが取れ、適切な息の圧力を学ぶことができます。もし途中で唇の震えが止まってしまう場合は、息が一定に出ていない証拠です。地声から裏声、裏声から地声へと、リップロールで途切れることなくスムーズに移動できるまで練習しましょう。
リップロールのコツ:両頬を軽く指で持ち上げると、唇が震えやすくなります。リラックスして、一定の息を送り続けることがポイントです。
この練習は、腹式呼吸の強化にも繋がります。お腹の底から一定の圧力で息を送り出す感覚が掴めれば、歌っている最中に声が不安定になることは激減します。裏声と地声の間を繋ぐための「ガソリン」となる息を、正しく供給できるようにトレーニングしていきましょう。
練習中にありがちな悩みと解決法

トレーニングを続けていると、必ずと言っていいほど直面する壁があります。「頭では分かっているのに、どうしても声が詰まる」「練習すればするほど喉が痛くなる」といった悩みは、多くの人が通る道です。ここでは、裏声と地声の間を練習する際によくあるトラブルとその解決策をまとめました。
声がひっくり返ってしまう原因と対策
換声点で「パコン」と声がひっくり返るのは、地声から裏声への移行が急激すぎるためです。これは例えるなら、車のギアをローからいきなりトップに入れるようなものです。対策としては、「中間のギア」であるミックスボイスの領域を意識的に長く通る練習が効果的です。
ひっくり返るポイントの少し手前から、徐々に裏声の要素を混ぜていくイメージを持ちましょう。具体的には、少し声を細く、響きを上に持っていくように意識します。また、ひっくり返る瞬間に「あ、くるぞ」と身構えてしまうと、喉に力が入って余計に失敗しやすくなります。あえてリラックスし、声が裏返ってもいいという楽な気持ちで練習に臨むことが、意外にも成功への近道です。
さらに、母音の形を見直すことも有効です。例えば「ア」は地声が強く出やすいため、ひっくり返りやすい傾向があります。そんな時は少し「オ」に近い響きに混ぜることで、喉が開きやすくなり、スムーズに繋がることがあります。自分の出しにくい音や言葉を特定し、その前後でどのように響きを調整するか試行錯誤してみましょう。
喉が締まって苦しくなる時の対処法
高音域に差し掛かると喉がギュッと締まり、苦しそうな声になってしまう。これは「喉締め」と呼ばれる現象で、地声の筋肉を無理に高い音まで引っ張ろうとしているのが原因です。喉仏が極端に上がってしまう「ハイラリンクス」の状態になると、声帯の柔軟性が失われ、ミックスボイスどころではなくなってしまいます。
この癖を直すには、喉をリラックスさせる「脱力」の練習が必要です。まず、わざと「あくび」の真似をして喉の奥を大きく開いてみてください。その状態をキープしたまま、低い音から「ホー」と声を出し、ゆっくり音程を上げていきます。喉仏が上がるのを手で軽く押さえて確認しながら練習するのも良い方法です。
また、肩や首の筋肉が緊張していると喉も締まりやすくなります。練習前にはストレッチを行い、上半身を柔らかく保つよう心がけましょう。深呼吸を繰り返し、全身の力が抜けた状態で声を出す習慣をつけることが、苦しさを取り除く第一歩となります。
地声が強すぎて裏声に繋がらない場合
声が大きくて力強いのは良いことですが、地声のパワーが強すぎると、裏声へのスムーズな切り替えが難しくなることがあります。これは、地声の筋肉(TA)が優位になりすぎて、裏声の筋肉(CT)の動きを邪魔している状態です。特に男性に多く見られる傾向で、強引に高音を出す癖がついている場合に起こります。
このタイプの人は、一度「大きな声を出す」という意識を捨て、ささやき声に近い、小さな声での練習にシフトしてみてください。小さな声であれば、地声の筋肉が過剰に働かなくなり、裏声の筋肉とのバランスを取りやすくなります。いわゆる「地声のボリュームを落として、裏声の響きに近づけていく」というアプローチです。
ハミングや、小さな「ウ」の音で低音から高音までを往復する練習を繰り返しましょう。地声と裏声の境界線がどこか分からなくなるほど、一定の音量で滑らかに移動できるようになるのが目標です。パワーで押し切るのではなく、繊細なバランスコントロールを覚えることで、歌声の柔軟性は飛躍的に向上します。
声の音色が急変する「段差」を消すには
ひっくり返りはしないものの、ある音を境に声質がガラッと変わってしまう「段差」に悩む方も多いでしょう。急に声が薄くなったり、鼻にかかったような不自然な音になったりする現象です。これは共鳴ポイントの移動がスムーズに行われていないことが原因です。
この段差を消すためには、「グラデーション」を意識した発声練習が役立ちます。一音一音を区切るのではなく、サイレンの音のように「ウィーン」と音程を滑らかに上下させます(ポルタメント練習)。このとき、音色の変化を最小限に抑え、低いところから高いところまで、同じ色をした一本の糸のような声を出すイメージを持ちます。
自分の声を録音して聴き直すことも非常に重要です。自分ではスムーズに繋がっているつもりでも、客観的に聴くと段差が目立つことがよくあります。録音した声を聴き、「どこで声が変わったか」を分析し、そのポイントを重点的に反復練習しましょう。耳を鍛えることは、喉を鍛えることと同じくらい大切なトレーニングです。
ステップアップのための応用練習メニュー

基礎が身についてきたら、より実践的なメニューに挑戦して、裏声と地声の間を完全にコントロールできるようにしましょう。ここでは、単発の音出しから一歩進んだ、動的なトレーニング方法を紹介します。これらをこなすことで、どんなメロディでも自在に歌える力が養われます。
スライド練習でシームレスな移動を身につける
音と音の間を断絶させずに移動する「スライド(グリスアップ・グリスダウン)」は、ミックスボイス習得における最重要メニューの一つです。ドの音から1オクターブ上のドの音まで、階段を一段ずつ登るのではなく、坂道を滑り上がるように声を出します。この練習の目的は、筋肉の切り替えを「無段階」にすることです。
まずはリップロールで行い、次にハミング、最後は「ア」や「イ」といった母音で行います。特に行き(上がる時)よりも帰り(下がる時)が重要です。高音の裏声成分を保ったまま、いかに自然に地声の音域まで降りてこられるかを意識してください。もし途中でカクンと音が落ちる箇所があれば、そこがあなたの弱点です。
スライド練習を毎日10分程度続けるだけで、声帯周りのインナーマッスルが鍛えられ、声の安定感が劇的に変わります。コツは、音程を上げるときに無理に圧力を強めず、むしろ声を遠くに飛ばすようなイメージを持つことです。滑らかな移動ができるようになれば、実際の曲中にある難しい跳躍フレーズも怖くなくなります。
特定の母音を使った響きの統一訓練
日本語の「アイウエオ」は、それぞれ口の形や喉の状態が異なります。一般的に「イ」や「ウ」は裏声が出しやすく、「ア」や「エ」は地声が強く出やすいという特徴があります。この性質を利用して、出しにくい母音を出しやすい母音の感覚で歌う練習をします。
例えば、ミックスボイス域の「ア」が難しい場合、まず出しやすい「ウ」でその音を出し、その響きのまま口の形だけを「ア」に変えていきます。これを「母音の変形練習」と呼びます。どの母音で歌っても、声の太さや響きの位置が変わらない状態を目指しましょう。これができるようになると、歌詞がついた途端に声が不安定になる現象を防げます。
【母音別の攻略イメージ】
・「ア」:喉を縦に開き、少し「オ」を混ぜる
・「イ」:口を横に引きすぎず、鼻の奥に響きを集める
・「ウ」:唇を前に出し、深い響きをキープする
・「エ」:明るい響きを意識し、喉が下がらないようにする
・「オ」:あくびの喉を作り、豊かな空間を作る
小さな声から大きくしていくクレッシェンド練習
裏声と地声の間を自在に操れているかの究極のテストが、同じ音程で「小さな声(ピアニッシモ)から大きな声(フォルテッシモ)へ」と音量を変化させる練習です。これを「メッサ・ディ・ヴォーチェ」と呼びます。音量を変えても音程がフラつかず、声質がスムーズに変化すれば、完璧なコントロールができている証拠です。
最初は裏声で小さく鳴らし、徐々に地声の成分を足してボリュームを上げていきます。そして最大音量に達したら、またゆっくりと元の小さな裏声に戻していきます。この過程で声がひっくり返ったり、震えたりしないように注意しましょう。非常に負荷の高い練習なので、短時間で集中して行うのがコツです。
この練習ができるようになると、歌にダイナミクス(強弱)が生まれます。ささやくようなAメロから、力強いサビへの盛り上がりを、一つの音域の中で自由に表現できるようになります。声の筋肉を極限まで精密に操る感覚を、この練習を通じて磨き上げてください。プロのような表現力の礎となります。
録音を使って自分の現在地を確認する
ボイトレにおいて、自分の耳ほど頼りになり、かつ欺きやすいものはありません。自分が喉の中で感じている音と、外に漏れている音には大きな差があります。上達を加速させるためには、毎回の練習を録音し、客観的に自分の声を分析する習慣が不可欠です。
「裏声と地声の間がスムーズに繋がっているか?」「鼻声になりすぎていないか?」「苦しそうな音色になっていないか?」と、チェックリストを作りながら聴き返してみましょう。また、憧れの歌手の音源と自分の声を交互に聴くことで、目指すべきゴールとの距離を把握できます。客観的な視点を持つことで、独学にありがちな「変な癖」がつくのを防げます。
スマートフォンの録音アプリで十分ですので、練習の最初と最後に録音する癖をつけましょう。数ヶ月前の自分の声と比較することで、成長を実感でき、モチベーションの維持にも繋がります。
歌唱表現を豊かにする実践的なテクニック

発声の基礎が整ってきたら、それをどう「歌」に活かすかを考えましょう。裏声と地声の間をコントロールできるようになった先には、感動を呼ぶ表現の世界が広がっています。ここでは、ミックスボイスを駆使して歌のクオリティを一段階引き上げるためのテクニックを解説します。
歌詞の言葉に感情を乗せるミックスボイス
歌は言葉を伝えるものです。単に「良い声」で歌うだけでなく、歌詞の内容に合わせてミックスボイスの質感を変化させることが重要です。例えば、切ない歌詞のときは裏声の成分を多めにして、少し息の混じった「ウィスパー気味のミックス」を使います。逆に、前向きで力強い歌詞のときは地声の成分を強め、芯のある音を選びます。
裏声と地声の間を自由に行き来できる能力は、まさにこの「声のパレット」を増やすことに他なりません。一つのフレーズの中でも、言葉のニュアンスに合わせて微妙に配合を変えてみましょう。聴き手は、その細かな声の変化から感情を読み取ります。技術を磨く目的は、最終的にはあなたの「心」を声に乗せるためであることを忘れないでください。
また、子音(k, s, tなど)の出し方にも注目してください。ミックスボイスで高音を歌う際、子音を少し強調することで、言葉が明瞭になり、リズム感も生まれます。母音の響きを保ちつつ、子音で言葉の輪郭をくっきりさせる。このバランスが、プロのような洗練された歌唱を生み出します。
ビブラートを安定させる喉の使い方
ロングトーンを美しく彩るビブラートも、裏声と地声の間が安定してこそ美しくかかります。喉が締め付けられていたり、無理に地声を張り上げていたりすると、細かく速すぎるビブラート(いわゆる「ちりめんビブラート」)になったり、逆に揺れすぎて音程が不安定になったりします。
ミックスボイスの状態は、喉がリラックスしつつ適度な緊張感を持っているため、自然なビブラートを生み出すのに最適です。声を揺らそうと意識しすぎるのではなく、心地よい響きの中に身を任せる感覚で、横隔膜や喉の奥を柔軟に保ちます。音が波のようにゆったりと揺れるのを感じられたら成功です。
もしビブラートが苦手な場合は、まず裏声でゆっくりと音程を上下させる練習から始めましょう。そこで掴んだ感覚を、徐々にミックスボイスへと転用していきます。安定したビブラートは、歌に余裕と品格を与えます。裏声と地声の間のコントロールが完成に近づくにつれ、ビブラートも自然と深く、美しいものになっていくはずです。
楽曲のジャンルに合わせた声の使い分け
ミックスボイスは、ジャンルによって求められる響きが異なります。ポップスであれば、地声に近い親しみやすい響きが好まれますし、R&Bやジャズであれば、より深い響きやフェイク(音を装飾して歌うこと)に耐えうる柔軟性が必要になります。ロックの場合は、エッジを効かせた鋭いミックスボイスが武器になるでしょう。
自分が歌いたいジャンルでは、どのような「裏声と地声の間」が使われているかを研究してください。アーティストによっては、あえて換声点を目立たせて「切なさ」を演出することもあります。技術として繋げるだけでなく、表現として「あえて外す」という選択肢も持てるようになると、歌のレベルは格段に上がります。
様々なジャンルの曲に挑戦することは、発声の偏りを防ぐ上でも有効です。バラードで繊細なコントロールを学び、アップテンポな曲で瞬発力を鍛える。そうして得られた多様な経験が、あなたの歌声に深みを与えます。一つのスタイルに固執せず、自分の声が持つ可能性を広く探求していきましょう。
日常生活でできる喉のケアと習慣
どれだけ素晴らしいテクニックを身につけても、楽器である「体」のコンディションが悪ければ、裏声と地声の間をコントロールすることは難しくなります。特に乾燥や冷えは、声帯の柔軟性を奪う大敵です。日頃からこまめに水分を摂り、加湿器を活用するなど、喉の潤いを保つ習慣をつけましょう。
また、睡眠不足や全身の疲れは、真っ先に声に現れます。声が出にくいと感じるときは、無理に練習せず休む勇気も必要です。さらに、姿勢も発声に大きな影響を与えます。デスクワークなどで猫背になりがちな人は、首や肩の筋肉が固まり、喉を圧迫してしまいます。日常的にストレッチを行い、いつでも歌える柔軟な体を維持してください。
こうした地道なケアの積み重ねが、いざという時のパフォーマンスを支えます。裏声と地声の間という繊細な領域を扱うからこそ、自分の楽器を丁寧にメンテナンスする意識を持ってください。一生付き合っていく自分の声。大切に育てることで、それに応えてくれるはずです。
裏声と地声の間を自在に操るためのまとめ
裏声と地声の間、いわゆる換声点の悩みを解消し、ミックスボイスを習得するための道のりを解説してきました。最後に、大切なポイントをもう一度振り返ってみましょう。まず最も重要なのは、地声と裏声の筋肉をバランスよく共存させるという意識を持つことです。どちらか一方が強すぎても、スムーズな歌声は生まれません。
具体的なトレーニングとしては、エッジボイスで声の芯を作り、鼻腔共鳴で響きの通り道を確保し、リップロールで息の流れを一定にすることが基本となります。これらをスライド練習や母音の調整と組み合わせることで、徐々に声の段差は消えていきます。一朝一夕で身につくものではありませんが、正しい練習を続ければ、体は必ずその感覚を覚えてくれます。
練習中に声がひっくり返ったり、喉が締まったりしても、それは成長の過程です。自分の声を録音して客観的に分析し、楽しみながら試行錯誤を続けてください。裏声と地声の間を自由自在に操れるようになったとき、あなたの歌の世界はこれまでとは比べものにならないほど、豊かで輝かしいものに変わっているはずです。焦らず、自分の声を信じて、一歩ずつ進んでいきましょう。




