日本におけるR&Bやブラックミュージックの先駆者として、40年近く第一線で活躍し続けているアーティスト、久保田利伸さん。彼の魅力は何といっても、一度聴いたら忘れられない唯一無二の「声」と、日本人離れした圧倒的なグルーヴ感にあります。
カラオケで彼の名曲を歌おうとしても、なかなかあの独特のニュアンスが出せずに苦労した経験がある方も多いのではないでしょうか。実は久保田利伸さんの歌声には、ボイストレーニングの視点から見ても非常に高度な技術が凝縮されています。
この記事では、久保田利伸さんの声の秘密を徹底的に分析し、その卓越した歌唱テクニックを分かりやすく解説します。彼の声を紐解くことで、あなたの歌唱力を向上させるためのヒントがきっと見つかるはずです。
久保田利伸の「声」が特別な存在であり続ける理由

久保田利伸さんの声がなぜこれほどまでに私たちの心を掴んで離さないのか、その背景には日本の音楽シーンにおける革新性と、天性の声質、そして計算し尽くされた表現スタイルがあります。
日本にR&Bを根付かせた唯一無二の存在感
久保田利伸さんがデビューした1980年代、日本のポップスシーンに「R&B(リズム・アンド・ブルース)」というジャンルを定着させた功績は計り知れません。当時、ブラックミュージックのフィーリングを日本語で完璧に表現できるシンガーは非常に稀でした。
彼の「声」は、それまでの歌謡曲的な発声とは一線を画していました。リズムを縦ではなく、面やうねりで捉えるその歌い方は、当時の音楽ファンに強烈なインパクトを与えたのです。日本人が英語のようなグルーヴで日本語を歌うという、新しいスタンダードを彼は独力で築き上げました。
現在活躍する多くの実力派シンガーたちも、久保田利伸さんの影響を多大に受けています。まさに「キング・オブ・Jソウル」の名にふさわしい、日本音楽史における重要人物と言えるでしょう。
倍音豊かな声質がもたらす圧倒的な説得力
久保田利伸さんの声の大きな特徴として、豊かな「倍音(ばいおん)」が挙げられます。倍音とは、基本となる音の周波数の整数倍の音が混ざり合っている状態のことで、これが多いほど声に深みや艶、響きの良さが生まれます。
彼の声には、ジリジリ、ビリビリとした心地よいエッジ(鳴り)の成分が含まれており、これが聴き手の耳にダイレクトに届く「抜けの良い声」を作っています。低音域ではずっしりとした重厚感があり、高音域ではパッと明るく輝くような響きに変化します。
この倍音豊かな声質があるからこそ、シンプルなメロディでもドラマチックに響かせることができるのです。これは単なる喉の構造だけでなく、後述する共鳴腔の使い方が非常に上手いことも関係しています。
時代を超えて愛される「ファンキー」な歌唱スタイル
「ファンキー」という言葉は久保田利伸さんを象徴する代名詞です。彼の歌い方は、単に楽譜通りに歌うのではなく、音を小刻みに切ったり、わざと遅らせて歌ったりする「タメ」の表現が非常に多用されています。
また、楽曲の途中で挿入されるアドリブやフェイク(旋律を崩して歌うこと)のセンスも抜群です。これらはすべて、彼の身体に染み付いたソウルミュージックの精神から生まれるものであり、聴き手を自然とリズムに乗せてしまう不思議な力を持っています。
流行が目まぐるしく変わる音楽業界において、彼のスタイルが色褪せないのは、その「声」と「リズム」が極めて高いレベルで融合しているからに他なりません。彼のパフォーマンスは、常に新鮮な驚きを私たちに与えてくれます。
久保田利伸の歌声における3つのテクニカルな特徴

久保田利伸さんの歌唱技術を支える要素を具体的に見ていくと、共鳴、ファルセット、フレージングという3つの大きな柱が見えてきます。
鼻腔共鳴を駆使した明るく抜けの良い音色
久保田利伸さんの声の明るさの秘訣は、鼻の奥にある空洞「鼻腔(びくう)」を巧みに使った鼻腔共鳴にあります。多くのシンガーが喉の奥で声を響かせようとする中、彼は声を斜め前や真上に当てるイメージで発声しています。
この鼻腔共鳴を意識することで、声がこもらずに遠くまでクリアに届くようになります。特に高音域において、彼は鼻の周りで声をビリビリと響かせることで、喉への負担を最小限に抑えつつ、パワフルで鋭い声を出すことに成功しています。
彼のような声を目指すなら、まずは鼻歌(ハミング)の練習から始めるのが効果的です。鼻の付け根あたりが振動している感覚を掴むことが、久保田流の発声に近づくための第一歩となります。
鼻腔共鳴のポイント
・口を閉じて「んー」とハミングし、鼻の奥が響くのを確認する。
・その響きを保ったまま、口を少し開けて声を出す練習をする。
・声の出口を口ではなく、鼻の付け根あたりにするイメージを持つ。
自由自在に使い分ける美しいファルセット
久保田利伸さんの真骨頂とも言えるのが、地声から裏声(ファルセット)への滑らかな切り替えです。彼のファルセットは、単に細い声ではなく、芯がしっかりとしていて響きが豊かなのが特徴です。
バラード曲では、切なさを表現するためにあえて息を多く混ぜたウィスパー気味のファルセットを使います。一方で、アップテンポな曲では、スパイスのように一瞬だけ高い音を裏声で出すことで、リズムにアクセントを加えています。
地声と裏声の境界線(換声点)を感じさせないその歌唱技術は、ボイトレにおいて「ミックスボイス」と呼ばれる理想的な状態です。声がひっくり返ることなく自由に行き来できる柔軟な声帯コントロールが、彼の多彩な表現を支えています。
母音をコントロールする独特のフレージング技術
久保田利伸さんの歌を聴いていると、日本語が英語のように聴こえる瞬間があります。これは、日本語の母音(あ・い・う・え・お)の響きを、あえて少し変えたり、子音を強調したりするフレージング技術によるものです。
例えば、「あ」を少し「お」に近い響きで歌ったり、言葉の頭に小さな「ッ」を入れるようなアタックの強い歌い方をしたりします。これにより、日本語特有の平坦なリズムが解消され、洋楽的なグルーヴが生まれます。
また、フレーズの語尾をスパッと短く切る「スタッカート」や、逆に次の音まで滑らかに繋げる「レガート」の使い分けも絶妙です。一音一音に対して、どのような音色で、どのように終わらせるかを緻密に計算していることが伺えます。
日本人離れした「リズム感」と「発声」の密接な関係

久保田利伸さんの声の魅力を語る上で欠かせないのが、類まれなるリズム感です。実は「リズム」と「発声」は切り離せない関係にあります。
裏拍を意識したアフタービートの魔術
日本人の多くは1拍目と3拍目にアクセントを置く「表拍」のリズムを得意としますが、久保田利伸さんの音楽の根底にあるのは2拍目と4拍目にアクセントを感じる「裏拍(アフタービート)」の世界です。
歌声そのものが裏拍のリズムに乗っているため、メロディが常に前へ前へと推進していくような躍動感が生まれます。彼はブレス(息継ぎ)のタイミングさえもリズムの一部として捉えており、息を吸う動作そのものが音楽的なグルーヴを生み出しています。
裏拍を感じながら声を出すと、発声にもキレが生まれます。ダラダラと声を出すのではなく、リズムに合わせて「点」で音を当てる感覚を養うことが、彼のようなファンキーな歌声への近道です。
身体全体でリズムを刻むことで生まれるグルーヴ
久保田利伸さんのパフォーマンスを見ると、常に手が動いていたり、膝でリズムを取っていたりするのが分かります。特に、手のひらを上下に振ってリズムを刻む仕草は彼のトレードマークです。
これは単なる癖ではなく、身体の動きと声を完全に同期させているのです。ボイトレの観点からも、身体が止まった状態で歌うよりも、適度にリズムを取りながら歌う方が、喉の余計な力が抜けやすくなり、声の鳴りが良くなるというメリットがあります。
彼のようなグルーヴ感を出すためには、歌う前にまず音楽を聴いて身体を揺らし、そのリズムの「波」に乗った状態で声を出し始める練習が非常に有効です。声は身体の楽器であることを、彼はそのパフォーマンスを通じて教えてくれます。
言葉の語尾とブレスに見るリズムのこだわり
久保田利伸さんの歌声がリズミカルに聞こえるもう一つの理由は、言葉の「切り際」にあります。フレーズの最後をどこで終わらせるかという点において、彼は非常に厳格なこだわりを持っています。
音を伸ばす「ロングトーン」であっても、ただ漫然と伸ばすのではなく、次の拍の裏でピタッと止めるなど、リズムの枠組みの中で声をコントロールしています。この正確な音の長さの処理が、曲全体に心地よいタイトさをもたらします。
また、歌い出しの直前に行う強めのブレス音(スッという音)も、リズムを強調するためのテクニックとして機能しています。ブレスそのものを一つのパーカッションのように扱う感覚が、彼の歌唱をよりパーカッシブでエキサイティングなものにしています。
リズム感を鍛えるボイトレヒント
・メトロノームを鳴らし、2拍目と4拍目で手を叩きながら歌う練習をしましょう。
・歌詞をすべて「タ」や「カ」に置き換えて歌い、リズムのキレを確認してみてください。
・ブレスの場所を楽譜に書き込み、リズムに合わせて吸う練習を意識しましょう。
ボイトレに取り入れたい久保田利伸流の発声メソッド

久保田利伸さんのような、表現力豊かで安定した声を出すために役立つボイストレーニングの手法を具体的にご紹介します。
声の移動・方向を変える共鳴コントロール術
久保田利伸さんは、一つの音の中で声の響く場所(共鳴腔)を移動させるという高等技術をよく使います。歌い出しは胸に響く深い音色で始め、徐々に鼻腔の方へ響きを上げていき、最後は頭に抜けるような音色で終わらせるといった手法です。
この「声の方向を変える」練習をすると、歌に劇的な表情がつきます。例えば、切ない歌詞のときは少し鼻にかけた「明るいけど寂しい声」を出し、力強いフレーズでは口を大きく開けて「前に飛ぶ声」を出すといった使い分けが可能になります。
まずは一つの音を長く出しながら、響きのポイントを「口の中」から「鼻の奥」へ移動させる練習をしてみましょう。鏡を見て、口の形や喉の状態をチェックしながら行うのがコツです。
喉を締めないためのリラックスした呼吸法
久保田利伸さんの発声は、高音域でも非常にリラックスして聞こえます。これは、喉の周りの筋肉で声を無理に出すのではなく、腹式呼吸によって支えられた安定した息の圧力を使っているからです。
彼のような深い響きを作るには、まず肩や首の力を完全に抜くことが不可欠です。彼はインタビューなどで「身体はリラックス、心はホットに」という趣旨の発言をしていますが、まさにこれが歌唱における理想の状態です。
ボイトレの基本である腹式呼吸をしっかり身につけ、吸った息を無駄なく声に変える効率的な発声ができるようになると、長時間歌っても喉が疲れにくくなり、彼のような艶のある声を維持できるようになります。
ミックスボイスで音域の壁を乗り越える方法
多くの男性シンガーにとっての壁である「高音域」を、久保田利伸さんはミックスボイスという技術で鮮やかに乗り越えています。ミックスボイスとは、地声のパワフルさと裏声の音域の広さを融合させた発声法です。
彼の歌声を聴くと、低音から高音まで一本の線で繋がっているような印象を受けます。これは、声帯を薄く引き伸ばしながら、適切な閉鎖(声帯を閉じる力)を加える練習を繰り返すことで習得できるものです。
地声で無理やり高音を出そうとせず、裏声をベースに地声の成分を混ぜていく感覚で練習を積み重ねましょう。久保田利伸さんの代表曲『Missing』などは、このミックスボイスのコントロールを磨くのに最適な教材となります。
キャリア40年近く衰えない歌声のメンテナンス法

60歳を過ぎてもなお、現役バリバリのパフォーマンスを見せる久保田利伸さん。その衰えない歌声を支える、プロフェッショナルな自己管理と意識について解説します。
加齢に伴い深みを増す声質の変化と魅力
久保田利伸さんの声は、若い頃のような突き抜けるハイトーンだけでなく、年齢と共に中低音の豊かさが増しています。声帯も筋肉の一部ですから、加齢による変化は避けられませんが、彼はそれを「表現の深み」へと昇華させています。
最近の歌唱では、少し「かすれ」の成分が含まれることがありますが、それが逆に渋みや説得力を生んでいます。これは、基礎的な発声技術がしっかりしているため、声が枯れてしまうのではなく、魅力的な「エッジ」として機能している例です。
自分の声の変化を受け入れ、その時々のベストな響きを追求し続ける姿勢こそが、彼がトップであり続ける最大の理由かもしれません。ボイトレにおいても、自分の今の声を愛し、大切に育てる意識が重要です。
ライブ前に行う身体を整えるためのストレッチ
久保田利伸さんは、ライブ前に独特なストレッチを行っていることを明かしています。特に興味深いのは、腰や股関節周りの柔軟性を重視している点です。歌声と下半身の安定には深い関わりがあるからです。
歌を歌う際、身体の土台が安定していないと、声が上ずったり喉に力が入りすぎたりしてしまいます。彼は腰骨の上あたりをほぐしたり、左右のバランスを整えるストレッチを行うことで、身体の軸を作り、声を出しやすい状態を整えています。
ボイストレーニングは喉の練習だと思われがちですが、実際には全身を使った運動です。歌う前に身体を動かし、血流を良くしておくことは、声の立ち上がりを良くするために非常に理にかなった行為と言えます。
声帯の健康を保つためのプロフェッショナルな意識
長期間にわたり全国ツアーをこなし、安定したパフォーマンスを提供し続けるには、並外れた健康管理が必要です。久保田利伸さんは、自分の声を「楽器」として扱い、日々の食事や睡眠、喉の保湿などに細心の注意を払っています。
また、彼は無理な発声を絶対にしません。自分の限界を知り、その範囲内で最大限の表現を出すことを心得ています。プロとして「代わりがいない」という責任感が、徹底したセルフケアを支えているのでしょう。
私たちも、歌の練習だけでなく、普段の話し声や喉の乾燥対策に気をつけることで、長く健康な声を保つことができます。久保田利伸さんのように一生歌い続けるためには、技術と同時に「喉への優しさ」も忘れてはいけません。
| 年代 | 声の特徴 | 歌唱スタイルの傾向 |
|---|---|---|
| デビュー当時 | 突き抜けるような高音、鋭いアタック | パワフルなアップテンポ、派手なフェイク |
| 全盛期(90年代) | 艶のあるミドルボイス、圧倒的な安定感 | 洗練されたR&B、メロウなバラード |
| 現在(2020年代) | 渋みのある倍音、表現力の深化 | 熟成されたグルーヴ、情感豊かな歌唱 |
まとめ:久保田利伸の魅力的な声を手に入れるためのポイント
久保田利伸さんの「声」をテーマに、その技術や魅力を様々な角度から分析してきました。彼の歌声が特別なのは、天性の才能に甘んじることなく、理論的かつ感覚的に磨き上げられた高度なテクニックがあるからです。
私たちが彼の歌声から学べるポイントは、以下の3点に集約されます。
第一に、鼻腔共鳴を意識した明るく響く発声を身につけることです。喉の負担を減らし、クリアな音色を作るこの技術は、あらゆるジャンルの歌唱において基礎となります。ハミングなどのボイトレを通じて、自分の声がどこで響いているかを感じ取る習慣をつけましょう。
第二に、リズムを身体全体で捉え、裏拍を感じて歌うことです。久保田利伸さんのような「ファンキーな声」は、正しいリズム感があって初めて成立します。単に音程を合わせるだけでなく、曲の持つ拍動を身体で表現し、言葉をリズムに乗せる楽しさを味わってください。
第三に、自分の声を楽器として大切にメンテナンスするプロ意識です。ストレッチで身体を整え、無理のない発声を心がけることが、長く魅力的な声を維持する秘訣です。加齢による変化さえも味方に変える彼の姿勢は、すべての歌い手にとって大きな希望となるでしょう。
久保田利伸さんの歌を聴き込み、その細かなニュアンスを模倣(マネ)することから始めてみてください。一歩ずつボイトレを重ねていけば、あなたも彼のような、魂を揺さぶる素晴らしい声を手に入れることができるはずです。




