「あの人の声はなぜか耳に残る」「歌声に深みがあって感動する」と感じたことはありませんか。実は、その魅力の正体は「声倍音(こえばいおん)」という成分にあります。私たちの声は、単一の音階だけではなく、目には見えない複数の音が層のように重なって構成されています。この重なり方によって、声のキャラクターや聴き手に与える印象が劇的に変わるのです。
ボイストレーニングにおいて、この声倍音を意識することは、理想の歌声や話し方を手に入れるための非常に重要なステップです。自分の声にどのような成分が含まれているのかを知り、それをコントロールする術を学ぶことで、誰でも自分だけの「響く声」を育てることができます。本記事では、倍音の基礎知識から、トレーニング方法までを詳しくお伝えします。
この記事を読むことで、声倍音の仕組みが理解できるだけでなく、日常のボイトレにどう活かせばよいかが具体的に見えてくるはずです。プロの歌手や魅力的なスピーカーが共通して持っている「響きの秘密」を紐解いていきましょう。あなたの声に隠された可能性を最大限に引き出すためのヒントが、ここに詰まっています。
声倍音(ばいおん)の仕組みと種類!基音との違いを解説

声倍音について深く理解するためには、まず「声がどのように構成されているか」という物理的な側面を知ることが大切です。私たちが普段耳にしている「声」は、実はたった一つの音ではなく、無数の音の集合体なのです。ここでは、その構造と主な種類について、ボイトレの視点から優しく紐解いていきましょう。
基音と倍音の関係:なぜ人の声は一人ひとり違うのか
私たちが「ド」の音で声を出したとき、その音階を決定づけている最も低い周波数の音を「基音(きおん)」と呼びます。しかし、実際にはこの基音の上に、その2倍、3倍、4倍……といった高い周波数の音がいくつも重なっています。これが声倍音の正体です。基音が音の高さを決めるのに対し、倍音は音の「色」や「質感」を決定する役割を持っています。
例えば、同じ音程で歌っても、ピアノとバイオリン、あるいはAさんとBさんの声が全く違って聞こえるのは、含まれている倍音の種類や強さが異なるからです。声帯で生まれた原音は、喉や口、鼻などの「共鳴腔(きょうめいくう)」という空間を通る際に、特定の倍音が強調されたり削られたりします。このプロセスの違いが、世界に一つしかない「あなたの声の個性」を生み出しているのです。
ボイトレの目的の一つは、この共鳴腔の形を自在に操り、自分が出したい音色に合わせて声倍音をバランス良く響かせることにあります。自分の声が「こもっている」と感じるなら、それは特定の倍音が不足しているサインかもしれません。逆に、倍音が豊かになれば、声の輪郭がはっきりし、存在感のある声へと進化させることが可能になります。
整数次倍音の特徴:クリアで力強いカリスマの声
声倍音は、大きく分けて2つのタイプに分類されます。一つ目は「整数次倍音(せいすうじばいおん)」です。これは、基音の周波数に対して、正確に2倍、3倍といった整数の比率で重なっている音のことです。波形が整っており、聴き手には「澄んだ音」「金属のような鋭い響き」として認識される傾向があります。非常に通りが良く、大勢の中でもはっきりと聞こえるのが特徴です。
この整数次倍音を多く含む声は、カリスマ性や信頼感、説得力を感じさせます。具体例としては、ニュースを読むアナウンサーや、厳かなお経を読むお坊さんの声などが挙げられます。芸能人では、タモリさんや黒柳徹子さん、歌手では浜崎あゆみさんやB’zの稲葉浩志さんのように、クリアで存在感のある声を持つ方に多く見られる成分です。聴く人をハッとさせ、注意を引きつける力を持っています。
ボイトレでこの成分を強化すると、声に芯が通り、力強い印象を与えることができます。高い音を出すときや、言葉を正確に伝えたいときに非常に有効な成分です。整数次倍音は主に、身体の中の空洞を硬く保ち、しっかりと共鳴させることで生まれます。凛とした雰囲気を作りたい場面や、華やかな歌声を披露したいときには、この倍音を意識した発声が求められます。
非整数次倍音の特徴:ハスキーで親しみやすい癒やしの声
もう一つのタイプが「非整数次倍音(ひせいすうじばいおん)」です。こちらは基音に対して整数倍ではない、不規則な周波数の音が混ざっている状態を指します。感覚的には「かすれ」や「ざらつき」を含んだハスキーな響きとして捉えられます。自然界の音で例えるなら、そよ風の音や波のせせらぎ、焚き火のパチパチという音に近い、情緒的でリラックス効果のある成分です。
非整数次倍音を多く含む声は、親しみやすさ、優しさ、セクシーさといった印象を与えます。聴き手に安心感を与え、距離を縮める効果があるため、カウンセラーや癒やし系のラジオパーソナリティに多い声質です。有名人では明石家さんまさんやビートたけしさん、歌手では宇多田ヒカルさんや徳永英明さんのような、深みのあるかすれた声にこの成分が豊富に含まれています。聴く人の心にじわりと染み入るような魅力があります。
ボイトレの文脈では、息を多めに混ぜた「ウィスパーボイス」や、あえて声を枯らすようなニュアンスを出すときに活用されます。感情をたっぷりと乗せたいバラード曲や、親密な会話の場面でこの倍音をコントロールできると、表現の幅が格段に広がります。整数次倍音とは対照的に、喉をリラックスさせ、息の流れを繊細に扱うことで引き出される美しい「ノイズ」の一種と言えるでしょう。
声倍音の2大タイプまとめ
・整数次倍音:クリア、力強い、カリスマ、信頼感。共鳴腔をしっかり響かせて作る。
・非整数次倍音:ハスキー、優しい、情緒的、癒やし。息を混ぜ、脱力した状態で生まれる。
声倍音が豊かな声になるメリット!歌や話し方がどう変わる?

なぜボイトレにおいて声倍音を増やすことが推奨されるのでしょうか。それは、倍音が豊かになることで、単に「音が綺麗になる」以上の実用的なメリットが得られるからです。歌唱時だけでなく、ビジネスや日常のコミュニケーションにおいても、倍音の力は大きな武器になります。ここでは、具体的な3つのメリットを詳しく見ていきましょう。
通る声になり、少ない力で遠くまで響かせられる
声倍音が豊富な声の最大のメリットは、いわゆる「通る声」になることです。物理学の世界には「カクテルパーティー効果」という言葉がありますが、倍音が豊かな声は、騒がしい場所でも背景のノイズにかき消されることなく、相手の耳にしっかりと届きます。これは、特定の周波数帯(特に3kHz付近のフォルマント)の倍音が強調されることで、聴覚的に目立ちやすくなるためです。
多くの人が「声を遠くに届けよう」とするとき、力任せに音量を上げようとして喉を痛めてしまいます。しかし、声倍音を活用できれば、ボリューム自体は大きくなくても、効率よく響きを増幅させることができます。喉への負担を最小限に抑えつつ、会場の隅々まで歌声を響かせたり、広い会議室で注目を集めたりすることが可能になるのです。これは、長く歌い続けたいシンガーにとって、非常に大きな利点です。
また、声が通るようになることで、発音も明瞭になります。倍音が言葉の輪郭をくっきりと縁取ってくれるため、小さな声で喋っていても「えっ?なんて言ったの?」と聞き返されることが少なくなります。滑舌の悩みがある方も、実は舌の動きだけでなく、この響きの成分を整えることで解決する場合が多くあります。効率的な発声は、身体の健康を守りながら、最大のパフォーマンスを発揮するための基本です。
感情表現が豊かになり、聴き手の心を動かす力が強まる
歌において最も大切な「感情」の伝達も、声倍音の種類とバランスに大きく依存しています。同じメロディや歌詞であっても、倍音の成分を使い分けることで、聴き手が受け取るニュアンスを自在にコントロールできるからです。例えば、力強く明るいサビでは整数次倍音を強調し、切なさを表現したいAメロでは非整数次倍音を多めに混ぜるといった技術が挙げられます。
もし声に倍音が少なく、平坦な響きしか持っていないと、どんなに一生懸命歌っても「一本調子」に聞こえてしまいがちです。一方で、豊かな倍音を持つ歌声は、音の粒子が細かく、聴き手の脳に直接語りかけるような深みを感じさせます。人は複雑に重なり合った音の響きに「美しさ」や「生命力」を感じる性質があるため、倍音を育てることは、そのまま「聴き手を惹きつける力」を育てることに直結するのです。
話し方においても同様です。プレゼンテーションで情熱を伝えたいとき、あるいは誰かを励ましたいとき、その感情は「言葉の意味」よりも「声の響き」に乗って伝わります。豊かな倍音は、言葉に温度や厚みを与え、相手の心の深い部分にまでメッセージを届ける助けとなります。テクニックとしてのボイトレを超えて、人間的な魅力を声で表現するためには、この成分のコントロールが欠かせません。
マイク乗りが良くなり、録音やカラオケでの聞こえ方が向上する
現代の音楽シーンやSNSでの発信において無視できないのが、マイクを通した時の聞こえ方、つまり「マイク乗り」です。声倍音が豊富な声は、マイクが音を拾いやすく、スピーカーから出した時にも存在感が薄れません。逆に倍音が少ない声は、マイクを通すと細く弱々しく聞こえたり、オケ(伴奏)に埋もれてしまったりすることがよくあります。
カラオケで「自分では一生懸命歌っているのに、マイクから出る自分の声が頼りない」と感じたことはありませんか。これは声量不足だけが原因ではなく、マイクが捉えるべき倍音成分が足りていない可能性が高いです。倍音がしっかりと含まれた声は、イコライザーで補正しなくても最初から「艶」があり、プロのような本格的な響きになります。録音した自分の声を聴いて「イメージと違う」と落胆することも減るでしょう。
また、編集の段階でも倍音が豊かな声は有利です。音の成分が全帯域にバランス良く分布しているため、リバーブ(残響)などのエフェクトも美しくかかりやすくなります。ボイトレで声の密度を高めることは、デジタル環境においても「映える声」を作るための最短ルートなのです。自分の声を一つの楽器として磨き上げる感覚で、倍音の強化に取り組んでみましょう。
ボイトレで声倍音を増やすための実践トレーニング

声倍音は、生まれ持った才能だけで決まるものではありません。正しいアプローチでボイトレを継続すれば、後天的に響きを豊かにしていくことが十分に可能です。ポイントは、声帯で作られた「原音」を、身体の中の空間でどのように共鳴させるか、という点にあります。ここでは、自宅でも今日から始められる具体的なトレーニングを紹介します。
共鳴腔を広げて響きのスペースを作る「あくびの喉」
声倍音を豊かに響かせるためには、声が通り抜ける「楽器の胴体」にあたる空間、つまり共鳴腔を最大限に活用する必要があります。特に重要なのが、喉の奥にある「咽頭腔(いんとうくう)」です。ここが狭く閉じていると、せっかくの倍音成分が打ち消されてしまい、詰まったような声になってしまいます。そこで、まずマスターしたいのが「あくび」の感覚です。
あくびが出る直前の状態をイメージしてみてください。喉の奥がぐっと広がり、軟口蓋(口の天井の奥にある柔らかい部分)が上に持ち上がるのを感じられるはずです。この状態をキープしたまま発声の練習をすることで、声に奥行きが生まれ、低い周波数から高い周波数まで幅広い倍音が含まれるようになります。まずは「ホ、ホ、ホ」という風に、深い響きを意識しながら短く発声してみましょう。
このトレーニングの際、舌の根元(舌根)に力が入りすぎないよう注意してください。舌が喉を塞いでしまうと、せっかく作った空間が台無しになってしまいます。リラックスして、喉の奥に大きな空間がぽっかりと空いている様子をイメージしながら、声がその壁に跳ね返って増幅される感覚を掴んでいきましょう。この「あくびの喉」が習慣化すると、声の厚みが劇的に増していきます。
鼻腔共鳴を意識したハミングで高次倍音を引き出す
力強い響き(低〜中域の倍音)が喉で作られるのに対し、声の明るさや煌びやかさ(高域の倍音)を司るのが「鼻腔(びくう)」での共鳴です。鼻の奥にある空洞に音を響かせることで、声に「艶」や「芯」となる高次倍音を乗せることができます。この感覚を掴むのに最適なのが「ハミング(鼻歌)」を使ったトレーニングです。
口を閉じて、鼻先や目のあたりに音がビリビリと響くようなイメージで「ムーー」と声を出し続けてみましょう。この時、指を鼻の横に添えて、振動が伝わっているか確認するのがポイントです。慣れてきたら、口の中に空気を溜めて頬を少し膨らませた「口開けハミング」にも挑戦してください。喉に負担をかけず、鼻の奥の空間だけで響きを増幅させる感覚が研ぎ澄まされていきます。
ハミングで得た響きを、そのまま実際の発声に繋げる練習も効果的です。「ンー……マー」という風に、鼻の響きを残したまま口を開けてみましょう。鼻腔共鳴が加わると、声の輪郭がはっきりとし、マイク乗りが非常に良いクリアな声になります。特に高音域で声が細くなってしまう人は、この鼻腔への意識を強めることで、キラキラとした豊かな倍音を維持できるようになります。
喉の脱力とリラックスが豊かな倍音を生むための鍵
多くのボイトレ受講生が陥りやすい罠が、「響かせようとして力んでしまう」ことです。しかし、物理的に考えると、硬く緊張した物体よりも、柔軟で弾力のある物体の方が、豊かな振動(倍音)を生み出しやすい性質があります。特に喉周りの筋肉が固まっていると、声帯の自由な振動が妨げられ、倍音成分が極端に少ない「痩せた声」になってしまいます。
まずは、首や肩、顎の力を意識的に抜くことから始めましょう。首をゆっくり回したり、肩を上下させたりして、身体全体の緊張を解きます。発声中も、声を「出す」というより、自然に「溢れ出す」ようなイメージを持つことが大切です。吐く息の量と声帯の閉じ具合のバランスが整ったとき、最も効率よく、そして美しく倍音が響き始めます。力みがない状態こそが、最もポテンシャルの高い声を引き出せる状態なのです。
リラックスを促す具体的な練習として、軽く唇を震わせる「リップトリル」も有効です。ブルルル……と一定の息で唇を震わせながら音階を上下させることで、喉の余計な力が抜け、自然な共鳴が得られるようになります。リラックスした状態で生まれた声は、聴く人の耳にも心地よく、長時間歌っても疲れにくい理想的な響きとなります。日々のボイトレの冒頭に、必ず脱力の時間を設けるようにしてください。
練習のヒント:倍音を増やすトレーニングは、静かな場所で行うと自分の響きの変化をより感じやすくなります。耳を澄ませて、自分の声の中にキラキラした成分や、ブーンという深い響きが混ざっているかを丁寧に観察してみましょう。
歌唱表現を広げる!倍音をコントロールする応用テクニック

倍音の基礎体力がついてきたら、次はそれを「表現」として使いこなす段階に進みましょう。声倍音は単に増やすだけでなく、曲の雰囲気や歌詞のメッセージに合わせて、その比率を自在に変えることが表現力の本質です。ここでは、一歩先を行くための応用的なテクニックを紹介します。
エッジボイスを活用して声の芯と倍音を強化する
「エッジボイス」とは、声帯を緩やかに閉じて、ガラガラとした「あ、あ、あ……」という音を出す発声法です。ホラー映画の演出などでよく耳にする音ですが、実はこれが倍音強化の特効薬になります。エッジボイスを練習すると、声帯を最小限の力で、かつ正確に閉じる感覚が養われます。この「声帯の適切な閉鎖」こそが、密度が高く倍音の詰まった声を作るための大前提となります。
歌い出しにこのエッジの成分をほんの少し混ぜることで、声に説得力が生まれ、聴き手の注意を一瞬で惹きつけることができます。これは、エッジボイスに含まれる複雑な倍音成分が、本能的に「生命力」や「感情の昂ぶり」を感じさせるためです。特に、整数次倍音を強化したいときには、エッジボイスを混ぜた発声から、そのままクリアな音へと移行する練習が非常に効果を発揮します。
また、エッジボイスは低音域だけでなく、高音(ミックスボイス)の安定にも寄与します。高音で声がひっくり返ったりスカスカになったりするのは、声帯が正しく閉じられていないからです。エッジの感覚を忘れないまま高音へ繋げることで、芯のある、響きの豊かなハイトーンを出すことが可能になります。声の「当たり」を明確にし、プロのような密度の濃い歌声を目指しましょう。
息の量を調節して「整数次」と「非整数次」を使い分ける
表現力の高いシンガーは、無意識のうちに息の量をコントロールして、倍音のタイプを切り替えています。例えば、力強くストレートなサビでは、息の漏れを最小限にして「整数次倍音」を主役にします。これにより、音の輪郭が鋭くなり、聴き手の耳に突き刺さるようなインパクトを与えます。この時、息を吐く圧力と声帯の抵抗をしっかりと拮抗させることがポイントです。
逆に、寂しさや切なさを表現したい場面では、あえて息を少し多めに混ぜることで「非整数次倍音」を際立たせます。ハスキーな質感が加わることで、声に「ゆらぎ」が生まれ、情緒的なニュアンスが強調されます。この息のコントロールを繊細に行えるようになると、一つの歌の中でも物語の展開に合わせて声のカラーをグラデーションのように変化させることができ、聴き手を飽きさせません。
まずは、一本のロングトーンの中で、「息漏れのないクリアな声」から「息たっぷりのウィスパーボイス」までを、止まることなく往復する練習をしてみてください。息の量を変えるだけで、声に含まれる倍音の構成がガラリと変わることに気づくはずです。このスイッチの切り替えがスムーズになればなるほど、あなたの歌は立体的で、ドラマチックなものへと進化していきます。
フォルマント(共鳴帯域)を意識した母音の微調整
声倍音を語る上で欠かせないのが「フォルマント」という概念です。これは、口の形や舌の位置によって、強調される周波数帯域が変化する現象のことです。私たちは「あ・い・う・え・お」という母音を、このフォルマントの違いによって聞き分けています。しかし、実は同じ「あ」という母音でも、微妙な形の作り方次第で、含まれる倍音のバランスを微調整することができます。
例えば、明るく快活な曲では、口角を少し上げ、明るい響きの倍音が出るように母音を「明るく」響かせます。逆にダークで重厚な曲なら、喉を少し下げ、低い帯域の倍音を強調するように母音の形を調整します。このように、曲調に合わせて母音の「色」を選ぶことで、声倍音を最も効果的な形で聴き手に届けることができるようになります。
トレーニング法としては、一つの母音を出しながら、ゆっくりと口の形や舌の高さを変えて、響きがどう変化するかを耳で追いかける練習がおすすめです。ある瞬間、声が急に輝きを増したり、深みが出たりする「ポイント」が見つかるはずです。そのポイントを意識的に再現できるように練習を重ねることで、あなたの声はより洗練された、コントロールの行き届いたものになっていくでしょう。
表現力を高める倍音コントロールのコツ
・インパクト:エッジボイスで声帯の閉鎖を強め、密度の高い倍音を作る。
・ニュアンス:息の量を調節し、整数次と非整数次の比率を変化させる。
・トーン設定:母音のフォルマントを微調整し、曲調に合わせた響きを選ぶ。
自分の声に含まれる倍音をチェック・視覚化する方法

ボイトレの効果を実感し、改善点を見つけるためには、自分の声を客観的に把握することが近道です。しかし、倍音は耳で聴くだけでは、正確に判別するのが難しい場合もあります。そこで活用したいのが、テクノロジーの力です。自分の声にどのような声倍音が含まれているかを「視覚化」することで、トレーニングの効率は格段に上がります。
スマホアプリを活用して自分の声の周波数を解析する
最近では、プロが使うような音響解析機能を備えたスマートフォンアプリが手軽に入手できます。例えば「CanSeeVoice」や「Spectrum Analyzer」といった、周波数をグラフ(スペクトラム)で表示してくれるアプリを使ってみましょう。これらのアプリを使えば、自分の声の中に、どの高さの音がどのくらいの強さで含まれているかが一目でわかります。
アプリを起動して声を出すと、最も高いピーク(山)として表示されるのが「基音」です。そして、その右側に一定の間隔で並んでいる小さな山たちが「倍音」です。整数次倍音が豊かな場合は、これらの山がきれいに等間隔で整列して表示されます。一方、非整数次倍音が多いハスキーな声の場合は、山の間の部分にもノイズのような細かい波形が表示されるのが特徴です。
トレーニング中にアプリを見ながら、「鼻腔共鳴を意識すると、高い周波数の山が大きくなるな」「喉を広げると、低い帯域の山に厚みが出るな」といった変化をリアルタイムで確認してみてください。目と耳の両方で自分の声の変化を捉えることで、理想の響きを作るための身体の使い方が、より早く、正確に身についていきます。数値やグラフとして成果が見えることは、モチベーション維持にも繋がります。
録音した声を聴き比べ、理想の響きを見つける
アナログですが、最も基本的で強力なチェック法は「録音」です。私たちは自分の声を、骨を伝わって聞こえる音(骨伝導音)を含めて聴いているため、他人が聴いている「本当の声」とは聞こえ方が異なります。録音して客観的に聴き比べることで、自分が思っている以上に倍音が足りていなかったり、逆に特定の癖が強すぎたりすることに気づかされます。
まずは、何も意識せずに発声した声と、あくびの喉や鼻腔共鳴を意識した声を録音して、交互に聴いてみましょう。この際、できればイヤホンやヘッドホンを使って、音の細部まで確認するのが理想的です。「意識した後の声の方が、なんとなく輪郭がはっきりしている」「声に艶がある」といったわずかな違いを見逃さないようにしてください。この聴き比べを繰り返すことで、耳の「倍音に対する解像度」が高まっていきます。
また、過去の自分の録音データと比較することも重要です。1ヶ月前、3ヶ月前の声と比べて、今の声にどのような響きの厚みが加わったかを確認することは、自信にも繋がります。自分の声を「嫌だな」と思うのではなく、「ここをこうすればもっと響くはずだ」という実験材料としてポジティブに捉えることが、ボイトレを成功させるためのマインドセットです。
プロの歌手や有名人の声を分析して特徴を学ぶ
自分の声を知るだけでなく、お手本となる「理想の倍音」を持つ人々の声を分析することも、非常に勉強になります。好きなアーティストや、憧れる声質の著名人の音声を、先ほどの解析アプリや録音の耳でじっくりと観察してみましょう。彼らがどのように倍音を使い分け、どのように感情を表現しているのかを紐解いていくのです。
例えば、圧倒的な歌唱力を持つシンガーの声を解析してみると、驚くほど高い帯域まで倍音が綺麗に伸びていたり、特定の周波数が非常に強く響いていたりすることがわかります。それは彼らが、長い年月をかけて自分の楽器(身体)を完璧にチューニングしてきた結果です。単に「上手いな」で終わらせず、「どの部分の響きが自分の声と違うのか」を具体的に言語化してみるのがコツです。
その人の声を真似る「モノマネ」も、実は優れたボイトレになります。特定の有名人の声の出し方を模倣しようとすると、必然的に共鳴腔の形や息の量を調整せざるを得ません。そうすることで、自分の普段の出し方では使わなかった筋肉が刺激され、新しい倍音の出し方を身体が覚えてくれます。自分という楽器の可能性を広げるために、プロの技を積極的に盗んでいきましょう。
声倍音を磨いて自分だけの魅力的な声を育てるためのまとめ
ここまで、声倍音の仕組みからそのメリット、そして具体的なトレーニング方法について解説してきました。声は、基音という土台の上に、無数の倍音が積み重なってできた「音の層」です。整数次倍音の力強さと、非整数次倍音の情緒的な響き。これらを理解し、コントロールできるようになることは、あなたの声に無限の表現力を与えてくれます。
ボイトレを通じて共鳴腔を広げ、鼻腔共鳴を磨き、余計な力を抜いていく。その地道なステップの積み重ねが、やがて誰にも真似できない「あなただけの魅力的な声」を作り上げます。倍音は、単なる物理現象ではなく、あなたの想いや個性を聴き手の心に届けるための大切なエッセンスなのです。
まずは今日から、自分の声を注意深く聴くことから始めてみてください。アプリで視覚化したり、ハミングで鼻の奥を響かせてみたり。ほんの小さな意識の変化が、あなたの声の未来を大きく変えていくはずです。自分の楽器を丁寧にチューニングし、より豊かで、より温かい響きを育んでいきましょう。あなたの声が持つ本来の輝きが、世界に届くことを応援しています。




